音読・文筆家

安藝 悟

aki satoru

簡略

1985年大阪府生まれ。会社員、文筆家。
大阪大学大学院卒業後、現在まで新聞社に勤務。
2016年より自作の掌編を自身で読み上げる「音読ライブ」を開く。
音声による言葉の認識のゆらぎ、言葉が流れていく中での聞き手の認識のあり方などを追求している。

安藝の作品は文筆作品であることを強調するため、便宜上「音読」という言葉を用いている。
朗読と言った場合、そこでは文章よりも読み上げる人の声が表現の核となる。
しかし安藝の活動はその反対で、文章そのものに比重があることを強調したかったため今のところ相応しい言葉として「音読」と称している。


音読で発せられる声はなるべく表現的でなく、無味無臭であることが望ましいが、一方で声である以上その存在感を完全に排除することはできない。声の表現性を削いでいった上で最後に残るもの、残さざるを得ないものを突き詰めるたとき、そこに音読の魅力があると考える。


文章が読み上げられることで時間的な強制スクロールが生じる。そこに浮かぶ晦渋な言い回しや、言葉のシニフィアン(記号表現)とシニフィエ(記号内容)のずれは、立ちどまって熟考したり、辞書で調べるといった行為ができない。が、それによって読者は想像の空白地帯を埋める力を行使し、自身の中で極めてゆたかで魅力的な劇空間を立ち上げてしまうのである。


言葉が持つ力が絶大であることは自明である。音読を通した文章は、その言葉の力の多様さに触れるのに非常に有効な手段だと考える。言葉の手ざわり、意味の独立性、発話者の感情、感情や意図と言葉が持つ意味のずれ、言えなさ……。「言葉」という単語の中に潜むあらゆるレイヤーを突き詰めることが音読によって可能であると考える。